「×0.7」のマネージメント

1948年頃発明されたトランジスタが、経験則であるムーアの法則集積回路上のトランジスタの数は「18ヶ月で2倍になる」と米インテルの創始者Gordon Mooreによって1965年提唱される)とスケーリング則(1974年に米IBMのR.H. Dennardによって発表されたデバイス内部の電界一定にするスケーリング方法)によって巨大な産業になって来たことは、第三回目の笠井氏のスパコンの話からも分かると思う。

世代毎に「×0.7」の微細化を行うことにより、面積は半分になり、スピード1.5倍速く、消費電力は半分になるという良いことずくめである。単純計算では30年経つと100万倍のトランジスタになる。この途轍もない2のベキ乗の効果が、半導体産業という「トレンドビジネス」を生み、収益逓増のビジネスモデルを確立し今なお続いている。「×0.7」によって大きな「付加価値」を創造しているのである。しかし、10-15年で物理限界、経済限界等でムーアの法則も終焉するという。直線的右上がりの時代を形成したビジネス哲学の終わりでもある。

一方、この「×0.7」のマネージメントを人間社会に適用してみる。ある組織の長が退任するとき、後任者の選択では自分より優れた人物を選ぶべきだと言われている。しかし、古今東西の歴史を紐解いてもなかなかこれが出来ていない。むしろ、自分より劣っている「×0.7」の人物を選ぶのである。なぜか、端的に言えば「院政」を敷きたいからからで、御しやすい人物を選ぶ。能力、人格、胆力が「×0.7」では1/3の「器」の人物になる。人物逓減のマネージメントである。この「×0.7」のマネージメントを繰り返せば組織が崩壊するのは火を見るより明らかである。しかし、これがなかなか出来ないのが人間である。しっぽを振ってくるスピッツはかわいいのである。こうなると魑魅魍魎の人事と化す。また、「拝金主義」に塗れているので地位と金が目的化してくる。この組織内への内向き志向からは創造的なものは何一つ生まれてこない。あるのは自己保存本能だけである。これが人間社会に於ける「×0.7」マネージメントの帰結であろう。

人間社会においては、逆に「×1/0.7」のマネージメントを行う必要がある。内向き志向から外向き志向にする必要がある。世界・人類への貢献、デフレ脱却のための消費志向、目線を外部の世界に向けるべきである。そこから「付加価値」が生まれてくる。自分の能力や人格を1/0.7(=1.5倍)に高める必要がある。そのプロセスから自分が全宇宙からみると如何に小さな人物かを気付くことが出来る。自分の専門分野とは異なる知識を獲得することにより、「知」に感謝できるようになる。

「大我」と「小我」という言葉がある。大我とは自分のことよりも他人のことを優先的に考える思考である。小我とは自分だけの利益を考え、欲に凝り固まっている姿である。我々は大我の心を持ち、謙遜や感謝という「知」を獲得したいものである。謙虚や感謝は創造力の源泉でもある。この「知」の通底にある「利他の心」の涵養こそが「知謝塾」の役割であろう。

一歩一歩、焦らず着実にその「知」に向って進んでいきたいと思う。

武田 英次
2012年9月